みなさん、普段運動はどれくらいしていますか?
運動は好きではないけれど、『健康のために!』と意識的に取り組んでいる方、子育てや仕事に追われ『運動する時間なんてない!』という方など様々だと思います。
運動は体にいいのは理解してるけれど、継続して運動するのはなかなか、、、、という方がほとんどではないでしょうか。
【運動は薬である】と、現役消化器外科医のDr. 石黒は言い切ります。運動不足は慢性疾患の原因や健康上の大きな問題になるため、全ての人が取り組む課題だと警鐘を鳴らしています。
それは運動は病気予防に繋がり、より健康な老後を過ごすため誰でも簡単に取り入れられる『薬』だからです。
それでは医学的な根拠と医師の観点から定期的な運動の重要性を説明していきます。
座っている時間と寿命の関係
1日の中でどのくらい座っていますか?
1日中デスクワークの人や、だらだらとソファーに座って過ごす人、通勤時間も座っている人など、心当たりのある人が多いのではないでしょうか。
皆さん、この『座っていること』が、実は寿命を縮めているという認識はありますか?
カナダ人を対象にした研究では、座位時間が長いほど死亡および心臓病による死亡に関連することが報告されています。
フィンランドでは、運動中に体内に取り込むことができる酸素の最大量(VO2max)を計測し、その数値と運動についての研究が行われました。VO2maxの値が高いのは、動作の間に酸素をたくさん取り入れることを意味し、寿命にも比例することがわかりました。
運動を普段している人は、年齢を重ねてもVO2maxの数値低下を防ぐことができ、死亡リスクも最低限に食い止められるという結果でした。
そして驚くことに、50歳で座りがちな人のVO2max値と80歳で積極的に運動する人のVO2max値は相当するというデータも得られました。これは座っているだけで30年分の健康被害を招いていることを意味し、長時間座っていることは短命に繋がっているかを表しています。
健康になる運動と寿命を縮めてしまう運動
それでは寿命短縮を回避する運動とは、いったい何をすればいいのでしょうか?
ジョギング?
ストレッチ?
ヨガ?
有酸素運動?
無酸素運動?
ここでは、健康上のメリット・デメリットをもたらす運動についてご紹介します。
健康になる運動
嬉しいことに、『長時間の運動は必要ありません!』
長時間の持久力トレーニングは酸化ストレスを増加させてしまいます。運動時間は「短く」が、寿命を伸ばす秘訣です。
そして継続することにより、細胞レベルの機能や筋力を高めることがわかっています。
VO2maxの研究結果にあるように数値を向上させることは、寿命を伸ばすことにつながります。短時間の運動でVO2maxを向上させるには①高強度インターバルトレーニングと②筋力トレーニングが効果的なのだそうです。
高強度インターバルトレーニング
15〜30秒の全力トレーニングと15〜30秒の休憩のセット、このセットを数分繰り返すトレーニング方法です。この全力トレーニングを30秒続けることは普段運動していない人にはハードなため、最初は20秒運動、10秒休憩を2分繰り返す(4セット)トレーニング方法がお勧めです。
筋力トレーニング
インターバルトレーニングよりもより効果のあるトレーニングが筋トレです。なぜならVO2maxを増加させる働きがあるからです。
そして特に、運動が得意ではなく体力がない人には、とても効果的なトレーニングで、筋力と心肺機能を同時に向上させてくれます。
筋肉量は一般的に、30歳を超えると徐々に失われていきます。しかし65歳以上の男女を対象にした実験では、年齢に関係なく筋力トレーニングにより筋力が増加するということが実証されています。トレーニングを始めるのに年齢は関係なく、トレーニングを重ねるごとに筋力を強化することも可能なことがわかっています。
寿命を縮めてしまう運動
ここで、健康においてデメリットになる運動もご紹介しておきます。
持久力トレーニングやランニングを日課にされている人も多いと思います。
実は、持久力トレーニングやランニングは心肺機能を高める効果がある反面、寿命を縮めかねない運動でもあります。Dr.石黒によると、習慣的に行っている人は、週3回60分程度であれば健康上のメリットが得られますが、それ以上は体にストレスを与えてしまいます。
同様に激しい運動も体内の活性酸素を増やしてしまいます。活性酸素の増えすぎは体の中の酸化=錆つかせることにつながり、結果として老化や病気の原因になります。
筋トレの医学的効果
ここからは近年多く報告されている、筋肉量・機能を維持することへの体への影響についての研究結果と筋力トレーニングがもたらす医学的効果をご紹介します。
認知症予防
筋肉を動かすことで【マイオカイン】というホルモンが分泌されます。近年、このホルモンを通じて体のあらゆる臓器に働きかけをしていることがわかってきました。その1つが、脳内の記憶を司る領域の機能、海馬の改善です。認知症は海馬の部位が傷害され、記憶障害の発生がおこります。筋トレにより海馬が改善され認知症の予防にも効果が得られます。
糖尿病予防
【マイオカイン】は腸内分泌細胞にも働きかけ、消化吸収に適した環境づくりをしてくれます。これはインスリンの分泌を刺激する血糖値を抑えてくれ、糖尿病を予防する効果を意味します。特に筋トレの後は、このメカニズムが働き、食べ過ぎることが少なくなり、血糖値の急上昇も抑えてくれます。
善玉菌(腸内環境の改善)
運動をすると腸内の善玉菌が増え、細菌の多様化が進むことが最近の研究でわかってきました。それにより善玉菌である乳酸菌が増え、病原菌を排除してくれることに繋がります。免疫機能の維持・向上につながるため、筋トレは風邪や病気になりにくい身体にしてくれるのです。
習慣化させるためのコツ
筋力トレーニングはキツいイメージがあり、とっつきにくいと思われる方に、Dr.石黒がお薦めする筋トレの方法と楽しく習慣化させるコツをお教えします。
年齢や体力に合わせる
重力トレーニングやトレーニングマシンは必要ありません。腕立て伏せ、懸垂、スクワットなどご自身の体重を利用したトレーニングや、椅子やタオルを利用するだけで十分な筋力はつけられます。ご自身の体力や筋力に応じた、できる範囲のトレーニングから取り組んでください。
楽しい気持ち
マウスを使ったデータによると、運動時の腸内細菌の増え方は、義務的に行うより自発的に行った方が上昇率が高いという結果が得られたそうです。『やらなくちゃ!』と義務的に考えず、まずは『楽しめそう!』『やってみたい運動』を取り入れてみてください。そして徐々に筋力トレーニング要素を入れていきましょう。体だけでなく気持ちも楽しく続けられるのがポイントです。
疲れさせない
無理をせず、翌日に疲労を感じない程度に行いましょう。筋トレはゆっくり行い怪我や体へのダメージを抑えるのも大切です。疲労回復のため十分な睡眠も必要です。睡眠不足は筋力量の減少を引き起こす要因になり得ます。
食事で効率的に疲労改善
運動をした後の体のケアもとても大切です。ビタミンC、ビタミンEなどを摂取することで運動後の疲労改善になります。抗酸化物質が豊富な緑黄色野菜や果物をたっぷり取ることで運動と食事から健康な体作りにもつながります。
運動を習慣化して健康で明るい未来を!
いかに運動が大切で、医学的効果があるかを説明してきました。ここまで読まれて、既に椅子から立ち上がり屈伸やストレッチなど、運動をしたくなった方が多いのではないでしょうか。
Dr. 石黒が進める運動という『薬』は処方も必要なく、誰でも気軽に内服できます。是非とも運動を日常生活に取り入れ習慣化してみてください。認知症や心臓病といった病気予防と共に、心身ともに健康で明るい未来も手に入るはずです。