ストレスで感染症にかかりやすくなる?! メンタルヘルスと免疫力の関係

特集

仕事のストレス、人間関係のストレス、経済的なストレス、寒冷や騒音など環境からくるストレス、私たちはいつも様々なストレスの原因となる刺激(ストレッサー)に囲まれて生活しています。

日々抱えるストレスをうまく解消していかないと、風邪などの感染症やゆくゆくはがんなどの大病にかかりやすくなるということをご存じでしたか?

ストレスが精神的に良くないことを知ってはいても、実際、体にどれほどの影響があるのかはあまり知られていないのではないかと思います。

そこで、現役の消化器外科医でヘルスコーチでもある石黒成治先生に、ストレスからメンタルヘルスが損なわれた時の体への影響について詳しく教えていただきました。

 

「落ち込むと感染症にかかりやすくなる」は本当?

石黒先生によると、ストレスと免疫力は密接な関係にあることが化学的にも証明されているそうです。

身体の免疫システムを簡単に説明すると、体内にウイルスや細菌が侵入すると、白血球がそれらの外敵から身体を防御するように働きます。

がん細胞やウイルスに感染した細胞を見つけ出し攻撃するナチュラルキラー細胞、細菌・真菌・ウイルスや死んだ細胞などを包み込んで分解処理する貪食細胞、そしてその他のリンパ球(B細胞やT細胞など)が連携を取りながらネットワークを作り、私たちの身体を守っています。

また、一度体内で破壊された病原体に対して、その情報を記憶するメモリーシステムもあります。このシステムのおかげで、私たちの身体は、同じ病原体からの2度目3度目の攻撃にいち早く反応して対応できるように準備を整えることができます。

このように、免疫システムが絶えず働いているおかげで、私たちの身体は病原体から守られているのです。ところが、ストレスによってこの白血球のメカニズムに支障をきたすことがあります。


石黒先生によると、ストレスは直接ウイルスに感染した細胞を攻撃するキラーT細胞や、がんを殺せるリンパ球として知られている
細胞傷害性Tリンパ球の働きを抑制してしまい、病原菌や異常細胞に対する防御力が下がってしまうことが分かっています。

2002年にジョン・ホプキンス医科大学で行われた研究では、軽度のうつ病と免疫力の関係が明らかとなりました。研究の対象に選ばれたのは、アルツハイマー病の人を介護しているような人たちで、毎日の介護によるストレスでメンタルが落ち込んでいる人でした。

この研究結果から、対象者のウイルスや細菌に対するリンパ球の反応は明らかに落ちていたことがわかりました。通常、リンパ球の反応は加齢と共に低下していくのが一般的ですが、この研究では、慢性的なストレスが加味されることで、著しく感染に対する抵抗力の低下が見られました。

この結果から、慢性的にストレスがかかる状況下にいると、人の免疫力は低下するということが言えます。つまり、いつまでもクヨクヨ思い悩んでいると、風邪をひきやすくなるということですね。

 

ストレスに対抗する身体のシステム

では、ストレスがかかる度に風邪をひくのかというと、そんな人は少ないですよね。なぜなら、人の体には、ストレスを感じた時にストレスに対応できる仕組みが備わっているからです。

人が心身にストレスを感じると、副腎皮質からコルチゾールというホルモンが分泌されます。ストレスにより急激に分泌量が増えることからコルチゾールは「ストレスホルモン」と呼ばれています。

このストレスホルモンに対し免疫細胞が反応するのですが、石黒先生は、慢性的なストレスが体にかかるとき、明らかに免疫細胞の機能が落ちていることを指摘しています。


通常ストレスがかかったとき、免疫細胞から炎症性サイトカインが分泌されて、一時的に免疫系を活性化しようと働きます。ところが、慢性的なストレスがかかると、免疫系は持続的に炎症性サイトカインを分泌し続けなければならなくなり、次第に免疫反応が落ちるということが分かっています。


つまり、慢性ストレスにより慢性疾患や感染症のリスクが上がるということです。

とはいえ、完全にストレスから解放されて自由気ままに生きていこう!なんていうのは、普通は無理ですよね。仕事や家庭生活など、毎日やらなくてはならないことをたくさん抱えていたり、経済的に何か問題を抱えていたり、常にストレスを感じながら生きている人がほとんどだと思います。

そこで、これらのストレスをゼロにするのではなく、いかに軽減していくか、すなわちストレスマネジメントの方法を学ぶことが重要になってきます。

 

ストレスマネジメントを学んで上手にストレスを軽減しよう!

栄養素・食品編

ここでは、石黒先生がおすすめするストレス改善に有効な栄養や食品を紹介します。

日々の生活に取り入れていくことで、知らず知らずのうちにストレスを軽減することができるので、ぜひ参考にしてみてください。

ラベンダーの香り

ストレスに効果のあるハーブとして有名なラベンダーには、鎮静効果やリラックス効果が期待できます。お茶として飲むもよし、アロマセラピーでお部屋で芳香浴を楽しむのもお勧めです。また、お風呂上がりにラベンダーのエッセンシャルオイルを混ぜたマッサージオイルで肩や鎖骨のあたりをマッサージするとリラックス効果が高まります。

 

マグネシウム

ストレス下における神経伝達物質の調節や、ストレスそのものに対する抵抗性を高めることが分かっています。葉物の野菜、ナッツ類、チョコレート、さつまいもなどに多く含まれています。また、手軽なマグネシウム摂取方法としてサプリメントもおすすめです。

ただ、下剤として利用される酸化マグネシウムは用途が違いますので、それ以外のマグネシウム製剤を利用するようにご注意ください。

 

テアニン

テアニンは、緑茶、特に抹茶に含まれる成分です。ストレス時に分泌されるコルチゾールの値を下げることで有名です。また、セロトニンやギャバと言われるリラックスを促進するホルモンの活性化を助けるので、緑茶や抹茶を飲むことはストレス解消につながります。

 

チョコレート

チョコレートに含まれるカカオポリフェノールには強い抗酸化作用があり、疲労回復や精神の安定・リラックス効果などが期待できます。1日2回74%のダークチョコを食べるだけで、2週間でストレスホルモンが軽減したという研究結果もあります。ですので、カカオポリフェノールが多く含まれる、ダークチョコレートがおすすめです。成分表示を見て、1番目に「砂糖」ではなく「カカオ」と書かれているものを選ぶようにしてください。

 

天然の魚

23週間にわたり天然のサーモンを摂取するグループと鶏や豚などの肉を摂取するグループに分けて、23週間後の心理状態を調べた研究があります。両グループに心理テストで不安がどれくらい解消されていたかを見たところ、サーモンを食べていたグループは、明らかに不安解消の効果が認められたそうです。

石黒先生は、この要因はオメガ3脂肪酸とビタミンDにあると強調しています。特に魚に含まれるDHAというオメガ3脂肪酸には心理ストレスを軽減するという報告があります。ただ、オメガ3は酸化しやすい脂肪酸なので、サプリメントでの摂取はお勧めしていません。なるべく加工されていない自然の食品から摂ることをお勧めします。

天然のサケ、イワシ、サバなどの魚を週に2〜3回摂るという食生活にシフトするだけで、実はストレス解消効果が期待できるのです。

 

バナナ

バナナには、トリプトファンというアミノ酸が含まれています。トリプトファンは脳内でセロトニンという物質に合成されます。セロトニンは、リラックス効果を高め、気分を向上させる神経伝達物質なので、バナナを週に数回おやつに食べることは、ストレス軽減に役立ちます。

 

ストレスマネジメント実践編

呼吸

深呼吸は手っ取り早く、かつ最も効果的なリラックス方法の一つです。 

ポイントは、意識的に大きく息を吸って、最後までしっかり吐ききることで横隔膜を動かします。

浅く早い呼吸は交感神経を刺激するので、体が興奮してしまいますが、大きな呼吸は副交感神経を刺激して身体をリラックスした状態に導けます。また、お腹を大きく膨らませて、お腹を大きく凹ませる腹式呼吸は、ストレスホルモンを軽減するという研究結果もあります。

最近では、腹式呼吸のエクササイズ用グッズも販売されているので、それらのグッズを利用するのもお勧めです。

 

マインドセット

マインドセットとは、これまでの経験や教育、価値観、思い込みなどによって作られる思考パターンのことで、個人個人が持つ固定化された考え方=思考の癖とも言えます。 たとえネガティブな出来事に遭遇したとしても、自分にとって何かしらポジティブなものを見つけるという視点を持つことで、ストレスは改善されて、不安が和らぐという効果があります。

石黒先生は、ご自身が困難な出来事に遭遇したときに、「この出来事は僕に何を教えてくれているんだろう」と考えるようにしていると言います。そうすることで、困難な出来事にもポジティブな意味付けができるようになり、何かしら学べるようになるのだそうです。

マインドセットは思考の癖です。最初は難しく感じるかもしれませんが、視点を変えることを意識して物事を見るようにすることで、マインドセットの転換ができるようになっていきます。

あなたがもし身動きが取れないと感じてしまうような状況にいるなら、大きく深呼吸をして、直面している問題に対して少し角度を変えて見てみてください。斜め上からだったり、後ろからだったり、下からだったり、あるいは見ることを一旦止めるのも一つの手かもしれません。

ストレスがかかっていると感じた時は、ご自身のマインドセットを変えてみることが、ストレスを解消する上では非常に重要になります。

 

ストレスマネジメントで感染症に負けない強い身体を!

ストレスは、免疫系に大きな影響を与えることが科学的にも証明されており、ストレスをうまく回避することは健康を保つ上でも大変重要です。

そのため、ここで紹介したような食品や栄養素を日常生活に取り入れたり、呼吸やマインドセットで日々のストレスケアを心がけることで、ストレスが軽減され、高い免疫力を保持することができると石黒先生は強調しています。

特に、最近風邪をひきやすくなったなと思うようなことがある人は、ぜひ一度ご自身のストレスレベルを考えてみてはいかがでしょうか?そして、ストレスマネジメントを生活習慣の一部としてみてください。

 

 

 

 

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